【リレーエッセイ2】
地理ファンの作る手づくり巡検のスタイル
作田龍昭
(社会人の地理クラブ「地理の会」代表)
「地理の会」という地理愛好者のグループを運営して12年になる。ビジネスパーソンや公務員、自営業など、さまざまな仕事の人たちが集まって“地理を楽しむクラブを作りたい”、というのが発足の動機だったが、それには旧FHGに学生時代から出席した思い出も大いに影響を与えている。
1年に6回の活動のうち2回は巡検を行なっているが、早いものでそれも19回を数えるに至った。
行き先は大きく分けて2つ。ひとつはシリーズで開催している「東京23区巡検」。一回に一つの区を選び徒歩を基本に一日じっくりと地形や街の姿を観察する、という企画である。これまでに8区を歩いた。もうひとつは東京近郊や日本各地の地理的に面白そうなところをたずねること。面白そう、というのは企画者の主観が多少入るのだが、昔からさまざまな地理的な事象で目や耳にすることが多いものの、なかなかきっかけがなくて行っていないところ、である。この「行ったみたいのだが行っていないところ」は大事で、そこに行くきっかけを作ろうというのも、地理の会のひとつの存在意義だと思っている。
それでは、これまでに会として巡検訪問したところから私のお勧めの場所を2ヶ所。
[横浜市鶴見区巡検]
JR鶴見駅から海側のエリア。工業地帯で工場ばかりという先入観を持つが、住宅や商店も多く、近代の史跡や街のなりたちに意外な発見がある。生麦事件碑から東へ延びる旧道。こんなところに、と思うような魚河岸通りの賑やかさ、工場を背景にした漁船、高度成長期沖縄出身者が固まっていた仲通(沖縄タウン)、川崎運河の跡に生まれた“平安・京?”、等など。その昔、横浜からの独立論もあったという「鶴見」。横浜とも川崎とも少し違う興味深いエリア。
▲川口に残る数少ないキューポラ
[埼玉県川口市・鳩ヶ谷市巡検]
鋳物の街、キューポラの街からマンションの街へ。産業都市として鋳物工業を支えた自然条件、交通条件や雇用環境などを考えるとともに、日光御成街道宿場町というもう一つの顔を知る。東京に隣接する50万都市のマンション群の陰に残っている古い街の姿。そして東京に近接し地下鉄で繋がっていながらエアポケットのようにローカルカラーが残っている旧・市場町「鳩ヶ谷」。いずれも時代変化の陰翳を感じる巡検地。
地理の会では年度始めに会員にその年の巡検地リクエストも行なっているが、やはり「今まで気になっていたのだが機会がなくてわざわざ行けなかったところ」というのが一番決め手になるような気がする。
一般の人にとっては何もないところ、と見えても地図を片手に歩けば必ず発見や気づきが生まれてくる。巡検をとおして関心を持ったことや縁があったことを、さらに調べてみる、他の事例がないか当たってみる、もう一度行ってみる、という探究心の楽しさを参加者のみなさんにはお勧めしている。
テーマを持って現場検分にいくのではなく、そこでテーマを見つける取材旅行のようなスタイルも「楽しむ地理」には重要な要素ではないかと考えている。