第29回巡検
市川流域の歴史的風土―生野から城下町姫路へ生野街道をゆく―
【日 時】 2003年5月25日(日) 巡検ルート地図(別窓で開きます)
【案内者】 大槻 守 矢野 忠 宝谷亮介 山田 潔 池田 碩 辰己 勝 山田 誠
【参加者】 78名
▲生野銀山の坑道入口
今回の巡検は史跡生野銀山から生野街道に沿って南下、途中、陣屋町福本、民俗学者柳田国男のふるさと福崎(辻川)、そして香寺を経由して城下町姫路に入るコースをたどりつつ、この地域の歴史的風土を味わいます。JR姫路駅南口(新幹線側)に集合、まず姫路バイパスから播但連絡道に入り、市川に沿って一路北上して生野に向かいます。最初の訪問地は史跡生野銀山です。旧坑道を利用した見学施設は生野銀山隆盛の歴史を今に伝えるもので、地底に繰り広げられた文化とロマンの跡を見学します。見学する坑道の長さは約1km、所要時間はおよそ40分です。坑内は大きく2つのステージに分かれています。一つは近代の採掘作業の設備・技術を紹介するステージ、もう一つは近世の坑内作業を紹介するステージです。坑内の気温は年間を通して13℃前後、足下は平坦でアップダウンもなく歩きやすいのですが、やや薄暗く地下水がたまっているところもありますので、少しばかりの注意が必要です。懐中電灯は不要ですが、かなりの時間歩いて見学しますので、それなりの準備をお願いします。
このほか、生野銀山に関する史料その他を展示する鉱山資料館、近世の吹屋(精錬業者)を復元した吹屋資料館、生野鉱物館も併設されていますので、併せて自由に見学してもらいます。見学後、施設内にあるレストラン「マロニエ」で昼食をとります。
昼食後は、かつての鉱山町の風情を残す町並みを車窓から眺めながら、文久3(1863)年の平野国臣らによる生野義挙碑の前を抜けて国道312号線を南に向かい、生野峠(真弓峠)を下って播磨国に入ります。
途中、現国道と平行して走る旧生野街道に入り、かつての宿場町の面影をとどめる粟賀の狭い町並みを抜けて、播州福本藩池田家一万石の陣屋があった福本に出ます。国道沿いにある県立神崎高等学校一帯が陣屋跡といわれていますが、その名残を今にとどめるものはほとんどありません。高校の南側の小路を東に入ったところにある大歳神社境内の庭池が、かつての藩主御殿の庭園の一部と伝えられていますが、車窓からこれを望むことはできません。ただ、時間的余裕とバスの駐車スペースがあれば、高校の北側の山裾にある池田家の菩提寺徹心寺付近でバスを止め、簡単に説明したいと考えています。
山間の小藩とはいえ、福本藩池田家は播磨国守・池田輝政の血を引く名門で、ここに陣屋を設けた池田直政の祖母(姫路藩主池田輝政の正妻)は徳川家康の二女督姫でありました。菩提寺である徹心寺の茅葺き屋根の山門と本堂の趣もさることながら、境内にある歴代藩主の墓所はさすがに堂々たるもので、墓碑には池田ではなく松平の姓が刻まれています。
福本を後にバスは市川町に入り、再び国道から旧生野街道に入って、市川水運の最終地、水陸交通の結節点であった屋形の集落を車窓から見学してもらいます。その後は市川に沿ってさらに南下、日本民俗学の父、柳田国男の生誕地である福崎に向かいます。ここで福崎町辻川にある柳田国男の生家と柳田国男・松岡家顕彰会記念館そして神崎郡歴史民俗資料館を見学します。
柳田国男は松岡家の六男として明治8年に当地で生まれていますが、彼に限らず兄弟(8男のうち3人は早世)はみな俊英ぞろいでありました。記念館は、柳田国男のほか、長兄の鼎、三男で国文学者・歌人の泰蔵(井上通泰)、七男で言語学者の静雄、八男で日本画家の輝夫(松岡映丘)らの遺品を展示し、その功績を紹介しています。生家周辺での見学ならびに散策時間は約40分くらいになると思います。
この後、福崎から香寺町へとバスを進め、日本玩具博物館を訪問します。たかが玩具と思ってはいけません。ここには日本の郷土玩具はもとより、世界120か国以上におよぶ国々の玩具や人形、関係資料が収蔵されており、コレクション総数は7万点を軽く超えています。
昭和49年に館長の井上重義さんが個人のコレクションを一般公開することから出発した博物館ですが、その後の歩みは単なる展示にとどまらず、手作り玩具の普及活動、消えゆく郷土玩具の保存と復元(姫路張り子、からくり人形の「神戸人形」などを復元)、ちりめん細工の研究と講座開催、全国凧あげ祭りの開催(1月中句・姫路)など多方面にわたり、その内容とユニークさから、今や日本を代表する玩具博物館との評価を得ています。1号館から6号館まで6棟の土蔵造りの展示館がありますので、2班に分かれて説明してもらう予定です。見るだけでなく触って遊べるコーナーもありますので、ひととき童心に帰って楽しんでいただけたらと思います。見学時間はおよそ1時間の予定です。5号館の「らんぷの家」でゆっくりとくつろいでもらうのもよいかと思います。
日本玩具博物館を後に、いよいよ最終下車地の姫路へと向かいます。途中の仁豊野には国道312号線に面して倫理学著和辻哲郎の生家があり、「春の来た日に和辻哲郎ここに生まれる」と記された記念碑が建っています。車窓から案内します。
▲世界遺産姫路城
北から姫路市街地に入り、戦災を免れた野里の街並みを抜け、野里門から姫路城の東側、レンガ造りの市立美術館(旧姫路市役所本館)前を通って大手門側に廻ります。大手前公園に面して立つ瀟洒な再開発ビル「イーグレ姫路」前で下車、ここでバスとはお別れです。下車後すぐに「イーグレ姫路」屋上展望台へと案内します。このビルは、姫路城周辺の整備事業の一環として平成13年に完成したばかりの住宅兼商業ビルです。ちなみに、建物の南側には城壁(石垣)の一部を残し、これに沿って東西に走る国道2号線(東行き)は、中濠を埋め立てたものです。それゆえこのビルは、姫路城の中濠内(中曲輪)の、かつて武家屋敷が並んでいた場所に位置していることになります。これまでに姫路城に登城された経験のある参加者の皆さんは多いと思いますが、城の周辺から姫路城を展望する最高の場所は、ここをおいて他にないと思います。ここから姫路城はもう目と鼻の先、壮大かつ優美な姫路城の姿をご堪能ください。
今回の巡検はこれをもって終了し、ここで自由解散とします。最寄り駅へ戻っての解散という通例とは異なりますが、JR姫路駅までは徒歩で10分程度です。姫路市最大規模の商店街である「みゆき通り」商店街が、まっすぐにJR姫路駅東口まで続いていますので、探訪を兼ねて歩いていただけたら幸いです。夕暮れまではまだまだ時間があると思いますので、時間の許す方は姫路城大手門をくぐって城内に入り、三の丸から天守閣をごらんになってはいかがでしょうか。
以上のように、今回のコースはたいへんバラエティーに富み、しかも公共交通機関の便に恵まれているとは言えないコースです。多数の会員の皆様のご参加をお待ちしています。
【宝谷亮介】