第4回巡検
湖北の歴史的景観と伝統産業
【日 時】 1991年6月30日(日) 巡検ルート地図(別窓で開きます)
【案内者】 井戸庄三 小林健太郎 高橋誠一 野間晴雄 樋口節夫
昨秋の第3回野外地理巡検は「三河ハイツ」に宿をとり、ひさしぶりに「三河」から知多半島に出かけました。東海道の歴史景観を求め、かつは吉良・一色・半田・常滑と「地場産業」の伝統をも訪ねて、盛会裡に散会できました。
車中の総会では、新会則の承認もうけました(本号に掲載)。当日、御約束しました第4回の巡検は「湖北」になりました。御当地には小林博・井戸庄三・小林健太郎・高橋誠一・野間晴雄・・・の諸兄をはじめ、現地の研究者も多く、今回はその「歴史的景観と伝統産業」を詳しく案内していただくことにしています。
実施日が6月30日という「梅雨」期間にしたのは「邦楽器糸用特殊生糸の座繰製糸」の見学にはこの期しかないという最適日を選んだと言うことです。本年のゴールデン・ウイーク後の一日は、是非「湖北」でお過ごし下さい。
なお、本年の「海外巡検」は先に御案内(別便)致しましたように、「タイランド」のうち、北部タイの3都市-コンケン・チェンマイ・チェンライ-を中心に9日間の日程で、7月末から8月初旬に出かける予定です。既に御申込の方もありますが、再度本会報にも「要項」を記載しました。準備の都合もありますので御希望のむきは至急便でお願いしたく思います。昨夏の「韓国」巡検以上の収穫をあげたいものと関係者一同努力しています。
このように、本年度前半の行事が6・7月に集中することになりましたが、ニューFHG発足後満1ケ年を経過し、旧会員からの皆様の動向も一応把握でき、さらに会員諸兄の紹介による新加入もあって、現在約300名の会員になりました。そこで、本年や当初世話役一同、1ケ年の反省と会の新しい企画を求めて相談の会をひらきました。4月中旬にはヤングFHGの皆さんの京都集会(墓参と懇親会)もありました。このようなことで、ニューFHGの起動源もこれでかたまったものと思っています。
第1回の枚方、第2回の西播、第3回の西三河、第4回は湖北と、まだ巡検のフィールドは狭いのですが、会員諸兄の御援助によって、その範囲をさらに拡大し、充実したものにしようと思います。
ともあれ、6月30日(日)9時35分JR米原駅でお会いすることにしましょう。タイランドヘの旅も御一緒したいものです。
【樋口節夫】
湖北レトロ旅情
新幹線のプラットホームを下りると、そこが米原駅西口。数年前までは殺風景な駅前であったが、「県立文化産業交流会館」や平和堂が立地して活気づきはじめた。西南方に入江干拓地がひろがる。琵琶湖岸を北上すると、すぐ細長い朝妻・筑摩の集落を抜ける。朝妻は中世の港。筑摩は奇祭”鍋冠祭り”で知られている。
長浜市域に入ると、建設中の「県立長浜ドーム」が姿を現わす。多雪地域の冬季のスポーツ活性化のための多目的屋内運動施設(グラウンド面積約10,000平方メートル、天井高最高部30m、スタンド1,800席)で、平成3年度末完成予定である。しばらく車を北にすすめると、湖岸に豊公園(豊臣秀吉の名にちなむ)がひろがり、昭和の長浜城が偉容をみせる。2層の大屋根に望楼をのせた鉄筋コンクリート造りの天守閣で、昭和58年4月、「市立長浜城歴史博物館」としてオープンした。常設展示のテーマは、秀吉と長浜、小堀遠州の美の世界、国友の鉄砲鍛冶と一貫斎、織物のまち長浜などである。長浜駅の南に接して石灰コンクリート造り2階建ての「旧長浜駅舎鉄道資料館」がある。明治15年、長浜~大津間の汽船連絡駅および敦賀方面への鉄道のターミナル駅として完成。新橋駅を摸してつくられた駅舎は現存する日本最古の駅舎で、駅長室や待合室が往時をしのばせてくれる。この前にあるお屋敷が慶雲館で、1月~3月は盆梅展で賑わう。
▲大通寺の参道
北国街道にでよう。古い町並みがつづき、風格のある「うだつ」や舟板塀がすばらしい。ところどころにのっぽの山蔵(曳山の収蔵庫)が突きでている。この北国街道と美濃谷汲街道がクロスするのが札の辻。ここに明治33年、第百三十三銀行の長浜支店が開設された。独特の黒塗り壁から「黒壁銀行と呼ばれていたが、今は「黒壁ガラス館」に変身。館内には世界の一流のガラス製品が展示、販売されており、隣の工房では若い芸術家が熱のこもったガラス細工の製作風景をみせてくれる。興味のある人はガラス工芸教室で勉強するもよし。”ビストロ・ミュルノワール”も洒落ている。東へ数分もいくと”お花キツネ”の伝説で知られる「大通寺」の門前だ。真宗大谷派の別院で、長浜御坊とも呼ばれている。伏見桃山城の遺構を移築したといわれる本堂、玄関、含山軒、蘭亭はいずれも国指定の重要文化財。最近、門前町も昔風に修景された。もう少し東へいくと「長浜八幡宮」の森がみえる。曳山祭り(4月14日~16日)はこの長浜八幡宮の春の大祭で、12基の曳山のうち毎年4基が祭りに参加する。曳山の舞台で演じられる子供歌舞伎は国指定の重要無形民俗文化財。さらに東へ向かうと、国道8号バイパス沿いに「長浜楽市」がある。洋蘭園が人気をあつめているようだ。
国道8号を北上すると、古戦場と地震(明治42年)で有名な姉川を渡る。昭和41年、田川カルバートの改修工事が完了し、田川上流の洪水問題は抜本的に解決された。車の右に浅井氏の小谷山、左に海苔のコマーシャルと同じ山本山がみえる。第二次大戦前は典型的な条里地割にハンノキや万年杭などの畦畔木が並ぶ湖北独特の景観を展開していたが、大規模圃場整備の結果今はその面影すらみられない。田園の真中に「渡岸寺(どうがんじ)」(高月町)というなんの変哲もない農村がある。ここの向源寺(真宗大谷派)の十一面観世音菩薩立像(国宝)は拝観するたびにその魅力をますから不思議だ。戦国時代の兵火から村民が守ってきたといわれるが、今も地元のお年寄りがボランティアとしてお寺の世話をしている。なお、湖北は観音の里と呼ばれるが、井上靖の『星と祭』を一読してはしい。
北国街道沿いの木之本の町に入る。そのほぼ中央に「木之本地蔵」(浄信寺)がある。本尊の地蔵菩薩立像(重文)は眼病に霊験があるということで、近郷に信者が多い。国道365号を車で数分ほど北上すると、左手に余呉湖が静かに横たわっており、その北畔に天女が羽衣をかけたという衣掛の柳が残っている。川並に住む桐畑太夫と天女の間にできた男の子が、坂口の菅山寺(真言宗)で教育をうけ、成人して菅原道真になったと伝えられている。
▲余呉湖周辺の琴糸用の座繰
余呉湖の南に”七本槍”で知られる賤ケ岳があり.その山麓に琴や三味線の弦をつくっている大音、西山の両集落がある。水上勉の『湖の琴』の舞台になったが、当日、野間晴雄氏によって楽器糸に関する最新の研究成果を紹介していただける手はずになっている。なお、伊香具神社(式内社)横の料亭”想古事源内”のフナをメインとする郷土料理をお奨めしたい。
湖北は、初夏もよいが、曇空で冷たい時雨が降り、雪が舞う晩秋から冬にかけてもう一度訪ねてみたい土地である。
【滋賀医科大学 井戸庄三】