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【書評2】


額田雅裕(解説)・芝田浩子(彩色)『城下町の風景-カラーでよむ『紀伊国名所図会』』

A4判、65頁、本体1,000円(税別)

ニュース和歌山、2009年発行


城下町の風景
▲『城下町の風景-カラーでよむ
               『紀伊国名所図会』』

 ついに城下町和歌山を歩くのに必携にしてしかるべき本がでた。著者は本研究会会員で和歌山市教育委員会生涯学習部の額田雅裕氏である。地形環境学専門の研究者として精力的な研究をされてきた著者は、近年は職場がある城下町和歌山フィールドに、近世城下町をテーマとして歩くことを主眼とした活動に取り組んでおられる。その蓄積の地域に対する深さの一端は一昨年の和歌山巡検でもお世話になった時に実感された方も多いであろう。

 さて、本書はニュース和歌山に2008年8月16日から2009年3月14日までの毎週土曜日号に掲載されたものをさらに修正・加筆されたものである。和歌山には高市志友(帯屋伊兵衛)が編集・出版した『紀伊国名所図会』(文化8(1838)年初編)という近世の地誌書があるが、その『紀伊国名所図会』の和歌山城下町を描いた部分『紀伊国名所図会』に額田雅裕氏が解説を、芝田浩子氏が彩色をほどこして、「夕涼み客でにぎわう夜店(03)」・「藩主も飲んだ?不老長寿の酒(14)」・「武術の見物スポット(15)」・「花樹と松に囲まれた鶴ノ渓(21)」・「にぎわう城下の台所(28)」など30のテーマを設定して、国土地理院発行の1万分の1地形図「和歌山」(1999年)や著者自身の撮影による写真によって城下町の全体を現況と対比して俯瞰している。また初頁には『安政二年和歌山城下町絵図』(和歌山市立博物館所蔵)が付せられ、それぞれの図版が城下町のどの部分を描いたものかが示されて利用者の便をはかられている。ほとんどのテーマが見開き1ページにおさまっているというのもよい。当時の見るべきポイントや城下町時代と現在との対比も丁寧な言葉遣いでわかりやすく説明されている。『紀伊国名所図会』を軸に、江戸時代後期の和歌山城下町の風景がいきいきと読み解かれ、まるで近世の城下町にタイムスリップしたような感覚を楽しむことができるという嗜好である。彩色された『和歌山名所図会』の人物たちはそれぞれの風景になじみ、まるで動き出しそうである。

 ところで、本書を一覧して『和歌山名所絵会』当時の状況と現況を比較して驚くのはあまりにも変貌した城下町の姿である。和歌山は、昭和20年7月9日の空襲によって、姫路城についで国宝に指定された天守をはじめとして町のほとんどが灰燼にきした。そのため江戸時代から残るものは重要文化財となっている岡口御門などごくわずかである。復興や近代化の中で埋め立てられて、建物は高層化し、整然とした町並みだけが残る。かつては物資を運ぶための小舟や屋形舟などが行き来した堀も狭くなってしまっている。また、道路の拡幅のために消えた水運などの様子が『紀伊国名所図会』によって見事によみがえるのである。今は失われてしまった逝きし近世の面影を、本書はあますところなく伝えてくれる。

 本書の底本となった『紀伊国名所図会』も絵と詞で和歌山の名所旧跡を紹介した好著であったため、江戸時代後期の文化8(1811)年に初編3巻、翌年に第2編3巻が出版された。好評を得て、第3編6巻が天保9(1838)年に、後編6巻が嘉永4(1851)年に刊行されている。長期にわたる刊行であったため、解説の本文中に「約二百年前・・・」とか「約百六十年前・・・」というように年代にばらつきがあるのはそのためである。

 なお、著者らの刊行物には、和歌山地理学会編『城下町が息づく和歌山を歩こう!』同学会や和歌山市立博物館編『南海の鎮和歌山城』和歌山市教育委員会などがある。ぜひ、それらの本を持って町角にたち、お城や藩の施設、武家屋敷や町人町などの城下町の風景をイメージして、城下町和歌山の歴史と文化に親しんでいただきたい。

(矢野司郎 京都明徳高等学校教諭)