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【リレーエッセイ5】


マヤ遺跡ウシュマルとチチェン・イッツァを訪ねて

柿原 昇(愛知県立東海南高等学校)


 平成19年8月、本研究会が主催するメキシコ巡検に参加する機会に恵まれた。そこで、標記のテーマで若干紹介してみたい。関西国際空港から2回乗り継ぎ、25時間30分を要して、ユカタン半島の中心都市メリダに到着した。メリダはユカタン州の州都で、典型的なコロニアル都市としても知られる。この都市の南方80㎞の熱帯林で覆われた地域にはチチェン・イッツァと並び称せられるマヤ遺跡で有名なウシュマルがある。

ウシュマル
▲魔法使いのピラミッド(ウシュマル遺跡)

 我々はバスで1時間30分ほど走行し、世界遺産ウシュマルのメインゲートに到着した。この遺跡に入ると、すぐ目に飛び込んでくるのが、「魔法使いのピラミッド」と呼ばれる高さ38mの神殿である。この名前は、伝説によると卵から生まれた魔女の息子が一夜にして造りあげた神殿であることに由来するという。しかし、実際には底面が長径70m、短径50mの楕円形をした土台に丸く滑らかなに石を積み上げた建造物で、300年の年月を要して、5つの神殿を造ってピラミッドを完成させたと推定されている。このピラミッドの西側と東側にある急勾配の階段は、危険防止のためロープが張られ、現在は登ることができない。東階段の30m以内の位置に正対して拍手をすると、その音が急な階段を駆け上がり、ピラミッドの中腹にある祠で共鳴して「キュンキュン」という大きな高い音が返ってくる不思議な現象が生じる。まさしく魔法使いのピラミッドの名にふさわしい仕掛けだ。さらに、このピラミッドの北側には、雨神チャックの顔や絡み合った蛇などの装飾物を上部壁面に施した(ツバメのすみかになっている)尼僧院、生け贄を捧げるためのペロータの球戯場、頂上からの眺めが雄大なグラン・ピラミッドなど、多くの遺跡が分布する。

チチェン・イッツァカラコル
▲チチェン・イッツァのカラコル(天文台)
チチェン・イッツァエルカスティージョ
▲チチェン・イッツァのエルカスティージョ(高さ25m)

 メリダの東、約120㎞に位置するところにはユカタン半島最大のマヤ遺跡チチェン・イッツァがある。この名前は「イッツァ人の泉のほとり」という意味に由来している。南北約3㎞、東西約1.5kmの範囲に新旧の遺跡が多数分布する。その中でも有名なのが、カタツムリを意味するカラコル(天文台)、春分と秋分の日の夕刻、晴天時には北側階段の両側最下部に蛇頭ククルカンの胴体が現れることでも有名な神秘的な宇宙観を有するエルカスティージョ、メソアメリカ最大の球戯場、大きく口を開けた聖なる泉セノーテなどである。世界遺産に登録されたチチェン・イッツァのいずれの遺跡をとっても、当時の人々の優れた知識に驚かされるばかりだ。

(2008年8月29日)





参考文献:
野外歴史地理学研究会(2007):メキシコ:ユカタン半島と中央高原(同研究会)pp.16-27
柿原 昇(2008):ユカタン半島と中央高原ーメキシコ巡検抄録ー(地理学報告) pp.33-48