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第34回巡検

大阪の社寺と古い町並みを巡る―住吉・平野・四天王寺―

【日 時】 2005年11月27日(日) 巡検ルート地図(別窓で開きます)

【案内者】 井寄芳春 小村典央 関口靖之 辰己 勝 前田 昇 正木久仁 森田 勝 安井 司 山田 誠

【参加者】 59名


 大阪市を対象とした巡検は2000(平成12)年11月以来5年振りになります。前回は難波宮址から川口、大阪港へと大阪市のほば中央部を東西に横断しましたが、今回はどちらかといえば大阪市の南部、社寺をキーポイントとして巡検コースを組みました。とは言いましても、社寺参詣のみを目的とするのではありません。都市形成における核のひとつであった宗教施設が現代都市においてどのように息づいているのか、新しい町づくりについても観察していただきたいと思います。

 集合は前回の大阪市内巡検と同じ大阪城公園駅です。お間違えのないようにお願いします。出発してすぐ阪神高速に入り、一路、最初の下車見学地住吉公園を目指します。途中、JR難波(旧湊町)駅前再開発地区に建設された「なんばHatch」や大阪ドームなどを見ることができるかと思います。

住吉神社
▲住吉神社

 住吉神社は攝津一ノ宮で、大阪一の初詣参拝者が集まることでも知られ、西側には1873(明治6)年に府下で最初に開設された住吉公園があります。反橋(太鼓橋)を渡ると社殿には本宮が4棟並んでいます。奥から第一本宮(祭神:底筒男命)第二本宮(中筒男命)第三本宮(上筒男命)が一列に並び、第三本宮の横に第四本宮(神功皇后)が位置します。いずれも住吉造と呼ばれる建築様式で1953(昭和28)年に国宝に指定されています。バス下車地点前にある広さ2反の御田では毎年6月14日に御田植神事が行われます。神功皇后が長門国から植女を連れてきたことに始まると伝えられており、田舞などを受け継ぎ国の重要無形民俗文化財に指定されています。また、境内には600余基の石燈籠が並んでおり、近世、近代の大阪に限らず全国各地のさまざまな商業、運輸の仲間が寄進者になっており、海の神としての信仰が篤かった本社の特徴をうかがうことができます。住吉大社は江戸期にも大阪や堺から多くの参詣者が集まり、鳥居前には料理屋などが立ち並んでいたといわれていますが、現在はその面影は見られません。鳥居前の道は熊野街道でもあり、天王寺方面への阪堺電車上町線[1913(大正2)年全通]、恵比寿町と浜寺公園を結ぶ同阪堺線[1911・12(明治44・45)年開通]がここで合流しており、さらに南海本線とは少し西で接続しています。

 住吉大社からは上町台地を横断して平野を目指します。平野郷は坂上氏の荘園に始まり、室町期には堺と並ぶ環濠都市、自治都市として知られ、末吉家(坂上氏の後裔の七名家(しちみょうけ)の筆頭)の交易範囲はルソンにまで及んでいました。戦後も比較的遅くまで大阪市街地とは独立した市街地を形成し、空襲を受けなかった古い町並みを残してきました。最初に平野郷の北西端にある大念仏寺を訪れます。ここは1127(大治2)年鳥羽上皇の勅願を受けて良忍上人が開創した融通念仏宗の総本山で、5月には聖聚来迎会と阿弥陀経万部会が融合した「万部おねり」が執り行われます。1938(昭和13)年に再建された本堂は大阪府下最大の木造建築です。次いで杭全神社で昼食後、説明を受ける予定です。本社は、この地を荘園とした坂上当道が862(貞観4)年に素盞鳴尊を勧請して祇園社を創建したのが始まりと伝えており、平野の集落形成の核になりました。社地の東側にはかつての土塁と環濠の一部が残っています。また、社務所の北にある連歌所は、連歌のための建物として現存するわが国唯一のもので、1987(昭和62)年には百年ぶりに連歌会が復活され、現在も毎月1回催されています。連歌所は大阪冬の陣で破壊され、1708(宝永5)年に再建されたものです。

平野の旧市街
▲平野の旧市街

 その後は平野の町の徒歩巡検に移りますが、一度に見学できる人数に限りのある施設が多いので、小グループに分かれての巡検になります。古くからの町並みや寺院に加えて、ミニ博物館などが見所でしょう。1969(昭和44)年のユニチカ平野工場閉鎖によるマンション建設など1965(昭和40)年頃から市街地化が進行してかつての平野郷の輪郭が次第に消え始めていましたが、1980(昭和55)年の南海平野線の廃止による平野駅の取り壊しをきっかけに「平野の町づくりを考える会」が発足し、現存する歴史的建築の調査・記録を行ってきました。1993(平成5)年に始まった「平野・町ぐるみ博物館」では各商店が仕事用具や商品を公開したり、個人の趣味で集めたものを展示したりしています。すでに10を超える博物館があり、毎月第4日曜日は「幽霊博物館」を除いて開館されますので、いずれも10人も入れば満員状態の施設ですが、当日は地図を片手に各自思いおもいにご見学下さい。

 最後の見学地は四天王寺と寺町地区です。聖徳太子が創建した四天王寺は大阪最古の寺院で現在も毎月21日の大師会には多くの参詣者が集い、沿道には露店が並びます。当日は正門である南門付近で下車する予定ですが、南門のすぐ北に位置する仁王門(中門)をくぐりますと、五重塔、金堂、講堂の順に並ぶ四天王寺式伽藍配置が確認できます。このほか聖徳太子を祭る聖霊院、4月22日の太子の誕生日に「聖霊会舞楽大法要」が営まれる石舞台などが見所です。石の鳥居がシンボルの西門は中世には極楽浄土の東門に向き合っていると考えられ、門前を熊野街道が通じていることもあって四天王寺のメインの門になりました。現在も地下鉄の駅は西側にあり、参詣者の多くは西門を利用しています。

 われわれも西門を出て、少し歩いていただき寺町地区に向かいます。勝鬘院は四天王寺の四院の一つ施薬院が始まりといわれており、愛染明王を祀るところから愛染堂、より親しみをこめて「愛染さん」と呼ばれています。芸能人などの篤い信仰を受け、夏祭り(6月30日~7月2日)には芸者衆など女性を乗せた「宝恵駕籠」が出ることでも知られています。本堂裏手にある多宝塔は慶長期に再建された大阪市最古の建造物で、国の重要文化財に指定されています。1902(明治35)年開催のサンフランシスコ博覧会にはこの塔の模型が出展されました。愛染堂が位置する上町台地一帯が「夕陽ケ丘」と呼ばれる地です。地名の由来は定かではありませんが、西方浄土の思想と関連があることは確かでしょう。愛染堂から50mほど北には『新古今和歌集』の選者の一人藤原家隆の墓がありますが、家隆は78歳の晩年に死期を悟り、日想観を修めながら往生したいという願いからこの地に「夕陽庵」という小庵を結びました。近世には景勝の地として料亭などが並ぶところともなり、星光学院中高等学校の地には、鮑の大杯(7合半入るという)などの奇杯で知られた「浮瀬」跡の碑があります。明治以降は学校が集中するところとなり、今日はマンション建設が進む人口の都心回帰が明瞭な地区になっています。

 最後は上町台地西側にある七坂の一つ(愛染坂または口縄坂)を下って下寺町に出て、バスで解散地点の上本町へ向かいます。上本町では、恒例により、一足早い忘年会を催しますので、時間に余裕のある方はふるってご参加下さい。

【正木久仁】


巡検報告

09:30 大阪城公園駅前集合、山田先生より挨拶と案内者の紹介、2台のバスに分乗する。
09:45 大阪城公園駅前出発、車中で正木先生より改めてコース等の説明あり。山田先生から、大阪城公園付近の説明を聞く。関口先生より日生球場跡地の利用や難波宮の説明あり。正木先生からJR難波駅前の再開発や大正区の説明を聞いているうち9時55分にバスは阪神高速を降りた。
09:57 辰己先生より6~7世紀の砂州の形成や上町断層の説明を車中で聞きながら、阪堺電軌に沿う紀州街道を進んで住吉大社に向かう。
10:05 住吉大社に到着、下車。太鼓橋で写真撮影ののち、第四本宮まであるうち第一本宮から第三本宮までが海に関する神を祭ることなど、宮司さんより説明を聞く。10時23分第一本宮で結婚式が始まる。大阪最古の図書館といえる御文庫の説明を聞きながら境内を一周。再び戻った太鼓橋の前で、安井先生の説明を聞く。
10:56 バス発車、住吉大社の南側から上町台地を東西に横切った。車中では辰己先生の旧版地形図との比較や山田先生の鉄道合併史、関口先生の細井川旧河口付近の住吉津や前田先生の上町台地の説明を聞く。また、正木先生・関口先生からなにわの伝統野菜の説明を聞きつつバスは東に向かう。
11:34 平野の大念仏寺に到着。下車し駐車場から境内に向かう。本堂に入り、教学部の岡田さんより良忍上人に始まる融通念仏宗と大念仏寺の形成に関する説明。本尊が掛軸の天得阿弥陀如来であることやマスコミに幽霊博物館として取り上げられるいわれなどを聞く。
12:27 バスは発車、車中で森田先生から40数年前に学生アルバイトとして大念仏寺の装飾の仕事をしたことなどを聞いているうちに12時34分杭全神社に到着。杭全神社で昼食・総会。
13:12 小村先生より説明を聞いたのち、小村先生・井寄先生の2班に分かれて平野の旧市街地を歩く。杭全神社の連歌所を見学してから2コースの徒歩巡検。
15:06 杭全神社を出発。
15:25 四天王寺南門に到着。集合写真撮影のあと、正木先生、安井先生の説明を聞く。
16:03 四天王寺境内を自由散策して西門に集合。そこから熊野術道・谷町筋を横切り愛染さんに行き、境内で市内最古の多宝塔についての森田先生の説明を聞く。大江神社を経て口縄坂を下りて下寺町に行き、バスを待つ。
16:50 バスに乗車。車中で安井先生の都市計画道路、山田先生の上本町再開発の説明を聞きながら近鉄上本町駅へ。
17:00 到着、解散。
17:30 ハイハイタウンの杯杯天山閣で塩路先生らも加わり、山田会長の挨拶から始まる懇親会が開宴。
19:30頃 盛会のうちに終了。